んという、スッキリとした厭味のないやつだろう。しかし、この男が何者かということは、ほぼ彼に想像がついていたのだ。泥坊か、密輸入者か故買者《けいずかい》か。どうせ、素姓のしれぬダイヤなどを持つようではそんな類《たぐ》いだろうが、とにかく、なんにもせよ気に入った奴だと、一度打ち込めば飲ませたくなるのが、折竹のような生酔いの常。
 「どうだ、一杯やるが付き合うかね」
 「酒?![#「?!」は一文字、第3水準1−8−77、210−11]」と、その男は飛びあがるような表情。「せめて、飯とも思っていたのに、酒とは有難い。有難い《オブリガード》[#ルビは「有難い」にかかる]。大将、このとおりだ」
 それから、リオ・ブランコ街の一料亭へいったのが始まり、それが、水棲人《インコラ・パルストリス》に招かれる奇縁の因となるのである。

   一番違い

 その男は、カムポスというパラグァイ人。詳しくは、カムポス・フィゲレード・モンテシノスという名だ。首府アスンションの大学をでてから牧童がはじまりで、闘牛士、パラグァイ軍の将校と、やったことを数えれば、とにかく、五行や六行は造作なくとろうという人物。それが、ぐ
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