》かね、英領ギニアかね」
「どうして、泥のついた掘りたてのホヤホヤだ。といって、ブラジルでもなし蘭《オランダ》領ギアナでもない。こいつは、おなじ南米でも新礦地《しんこうち》のもんだ」
出様によっては、なにかそれに就《つ》いて言い出したかもしれないが、あいにく折竹はダイヤなどというものに、熱や興味をいだくような、そんな性格ではない。その男も、折竹の態度にアッサリとあきらめて、もとのポケットへポンと突っこんでしまったのだ。
「これはね、じつは俺には宝のもち腐れなんだ。この国は、脱税品がじつにやかましい。うっかり持っていようものなら、捕まってしまうんだよ」と、いよいよさようならというようにニッコリ笑い、一、二歩ゆきかけたが、立ちどまって空を仰いだ。おおらかに、胸をはり嘯《うそぶ》くように言う。
「はてさて、俺も追ん出されて行き暮れにけり――か。颯爽《さっそう》と、乞食もよし、牧童《ガウチョ》もよし」
男の魅力が、時として女以上のものである場合がある。ここでも、これなりこの奇男子と別れたくないような気持が、折竹にだんだん強くなってきた。
警抜なる挙措《きょそ》、愛すべき図々しさ。な
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