れていないダイヤの原石。大きさは、まあ十カラットから二十カラットぐらいだろうが……、それよりも、掘りだしたままの土の手触りが、折竹にはじつに異様であった。彼は、手にとった石をあっさりと返して、
 「君、これは盗《と》ったやつかね。それとも脱税品《コントラバンド》か」
 「マア、言《い》や後のほうだろう。ところで、見受けたところ大将は、日本人《ジャポネーズ》らしい。日本人でも、サントスやサン・パウロにいるならお移民《コロノ》さんだが、リオにおいでのようじゃ大使館だね。まったく、どこの税関でもお関《かま》いなしに通れる、結構なご身分というもんさ。こっちも、そういう御仁《ごじん》相手でなけりゃ話しても無駄だし、また、大将なら乗ってくれるだろう。どうだ、いい値で売るが、いくらに付ける」
 しかしその時、折竹は一つの石をじっと見詰め、じつにブラジル産にしては稀《まれ》ともいいたい、その石の青色に気を奪われていた。小石ならともかくこうした大型良品《ボン》にあって、美麗な瑠璃《るり》色を呈すとは、じつに珍しい。ブラジル産にはけっしてないことである。
 「君、これはブラジルのじゃないね。南阿《アフリカ
前へ 次へ
全49ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング