れていないダイヤの原石。大きさは、まあ十カラットから二十カラットぐらいだろうが……、それよりも、掘りだしたままの土の手触りが、折竹にはじつに異様であった。彼は、手にとった石をあっさりと返して、
「君、これは盗《と》ったやつかね。それとも脱税品《コントラバンド》か」
「マア、言《い》や後のほうだろう。ところで、見受けたところ大将は、日本人《ジャポネーズ》らしい。日本人でも、サントスやサン・パウロにいるならお移民《コロノ》さんだが、リオにおいでのようじゃ大使館だね。まったく、どこの税関でもお関《かま》いなしに通れる、結構なご身分というもんさ。こっちも、そういう御仁《ごじん》相手でなけりゃ話しても無駄だし、また、大将なら乗ってくれるだろう。どうだ、いい値で売るが、いくらに付ける」
しかしその時、折竹は一つの石をじっと見詰め、じつにブラジル産にしては稀《まれ》ともいいたい、その石の青色に気を奪われていた。小石ならともかくこうした大型良品《ボン》にあって、美麗な瑠璃《るり》色を呈すとは、じつに珍しい。ブラジル産にはけっしてないことである。
「君、これはブラジルのじゃないね。南阿《アフリカ
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