、女形《おやま》をやれる軽口師《ガルガーンタ》という触れこみで、つい四日ほどまえ『恋鳩』に雇われた。初舞台――。ご婦人の下着などを取りだして、すっきりと笑わせる。と、行ってくれりゃ何のこたあなかったよ」
「引っ込め――か」
「いわれたよ。しかし、ものというのは、とりようだと思う。俺がずぶの素人でいてやかまし屋の『恋鳩』の舞台を、よく三晩も保ったかと思えば、われながら感心するよ」
「驚いた」と折竹も呆れかえって、
「君は、軽口師《ガルガーンタ》のガの字も知らんのじゃないか」
「そうとも、窮すればなんでもするよ。浪人数十回となれば、女中にもなれる」
そう言って、とっぷり暮れた夜気を一、二回吸い、暫《しばら》く、空の星をつくねんとながめていたが、急に、なにかに気付いたらしく、くるっと振りむいた。彼は、ぜひ大将に話したいことがある。それには、ここじゃ何だから彼方《あっち》でといって、ぐいぐい折竹を急き立てて、向うの小路へ入っていった。
「なんだね」
「じつは、大将にこれを見て貰いたい」とポケットからだしたその男の掌には、キラキラ光る粒が二、三粒転がっている。手にとると、まだ磨か
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