いぐい呷《あお》りながら、虹のような気焔《きえん》をあげはじめる。
 「人間は、ちいさな機会《チャンス》などに目をくれていたら、大きなのを失うよ。誰にも、一生に一度はやってくる大《でつ》かいやつを、俺は捕まえようってんだ。これはね、女にだって同じことだろうと思うよ。男が、生涯に惚《ほ》れる女はたった一人しかない。ドン・ファンや、カザノヴァが女を漁《あさ》ったね。だがあれは、ひとりの永遠の女性を見付けるためだったと――俺はマアそういうふうに解釈している。つまり、俺のは最上主義なんだ」
 「それが、君の放浪哲学だね。些細な、富貴、幸福、何するものぞという……」
 「そうだ。時に、喋《しゃべ》っているうちに気が付いたがね、今夜は、“Bicho《ビッショ》”の発表の晩じゃないか」
 “Bicho《ビッショ》”というのは、ブラジル特有の動物|富籖《とみくじ》である。蟻喰い《タマンツァ》[#ルビは「蟻喰い」にかかる]の何番、山豚《ポルコ・デ・マツトオ》の何番というように、いろんな動物に分けて番号がつけられている。その、当り籖が今宵の十二時に、ラジオを通じていっせいに発表されるのだ。それから二人は、
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