は、感謝の涙にあふれたロイスの目に送られながら、綱をといて窪みに降りていったのだ。無法、神に通ず――とは、カムポスの憲法《モットー》。今度も、三上を抱えてようやく戻ってきたのだが……、差しあげて、折竹に渡したとき足場を取りちがえ、ずぶっと深みへ落ちこんでしまった。とたんに、その震動で亀裂がおこり、泥水が流れ入ってくる。
「あッ、カムポス」と、思ったときは胸までも漬《つか》っている。カムポスは、一度は血の気のひいたまっ蒼な顔になったが、やがて、観念したらしくにこっと折竹に笑《え》み、
「駄目だ。俺は、もう駄目だから、君らは帰ってくれ。ホラ、みろ、上の土がだんだん崩れてくるじゃないか」
「カムポスさん、私のことから、なんてすまないことに」
とだんだん浸ってゆくカムポスに絶望を覚えるほど、いっそうロイスは切なく、絶え入るように泣きはじめた。
「じゃ、カムポス」と、折竹がおろおろ声で言うと、彼は、
「一番違い――動物富籖《ビツショ》のあれがやはりこれだったよ」
それからロイスに向い、「御機嫌よう《ボーア》[#ルビは「御機嫌よう」にかかる]、気を付けてね《ヴイアジェン》[#ルビは「
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