》くと早合点したのだろう。そこからは、道あるいは広くあるいは狭まり、くねくね曲りくねりながら、下降してゆくようである。すると、眼界がとつぜん開け、かすかに光苔《ひかりごけ》のかがやく、窪みのようなところへ出た。
 四辺《あたり》は、かつて地上の大森林だった亭々たる幹の列。あるいは、岩石ともみえる瘤木《りゅうぼく》のようなものの突出。ちょっと、この奇観に呆然《ぼうぜん》たる所へ、ロイスのけたたましい叫び声……。
 「アッ、あすこに誰かいますわ」
 すると、はるか向うの光苔の微光のなかに、一人の、葉か衣か分らぬボロボロのものを身につけた、瘠《や》せこけた男が横たわっている。声を聴いたか……手をあげたが、衰弱のため動けない。三上と、ロイスはぽろりと双眼鏡を取り落した。
 しかし、ここに何とも意地の悪いことには、ちょうど此処《ここ》までが綱の限度であった。ずぶずぶもぐる泥の窪みをゆくことは、僥倖《ぎょうこう》を期待せぬかぎり、到底できることではない。みすみす眼前にみてとロイスの切なさ。そこへ、カムポスが敢然と言ったのである。
 「俺がいってみる。このままで、帰れるもんじゃないよ」
 そうして彼
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