絶えず迷路が変ってゆくので、微動も起る。それに、あのダイヤの土が渓谷性金剛石土《カスカリヨ》なのを考えても、むかしは渓谷――といったような深い地下が思われてくる」
そこで、懐中電燈がはじめて点された。ぐるりは、水苔《みずごけ》のついた軟かな土、ところどころに、埋れ木の幹が柱のようにみえている。三人は、それから足もとに気遣いながらじわりじわりと進んでいった。すると、紆余曲折《うよきょくせつ》しばらく往《い》ったところに右手の埋れ木にきざんだ文字と地図。あっと、ロイスが胸をおどらせてみれば……。
――日本人、三上重四郎なるものこの迷路に入る。アルゼンチン各所監獄を転々とした末に、政治犯四名とともに「蕨の切り株」へ連れてこられて機関銃弾で追われながら沼地へと追いやられた。四名のなかには、革命に関係した有名な女優 Emilia Vidali《エミリア・ヴィダリ》 嬢も混っていた。嬢も、おそらくここへ落ちこんだのだろう。時々、かすかに歌声のようなものを聴いたが、ついにめぐり会えなかった。それほど、この迷路は複雑多岐である。さらに、ここへ来て余は、勝利を痛感す。それは、この密林が埋れて迷路が
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