に、漆黒の暗《やみ》のなかで折竹に声をかけた。腐土のにおいと湿った空気。ぬるっと、触れた手には水苔《みずごけ》がついてくる。と、遠くないところから折竹が答える声。
「ここはね、いわば地下の大密林というのでしょう。むかしは樹がしげった渓谷だったでしょうが、地辷《じすべ》りもあってすっかり埋《うも》れた。そこへ、ピルコマヨが流路を求めてきた。水が、沖積層《ちゅうせきそう》のやわらかな土に滲《し》みながら、だんだん地下の埋れ木のあいだへ道をあけていったのです。どこまで行くか、どこで終るのか、形も蟻穴のように多岐怪曲をきわめた――『蕨の切り株』の地下の大迷路《ラビリンス》です。それも、上から水がくるために、絶えず形が変ってゆく。また、沼の水面下に大穴が空いても、すぐピルコマヨが運んでくる藻のために埋まってしまうのです」
「では、三上はここへ落ちたのでしょうね。カムポスさんに会ったときは、ここから出たのでしょうね」
「そうですよ。しかし、生きていられることは、期待せんほうがいいでしょうね」
と言ってから、カムポスに声をかけた。
「君は、僕が地震計を持ちだしたら、笑ったじゃないか。だが、
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