はもぐれまい。それだのに、何百尺ゆけば底がみえるかもしれぬ泥のなかへ、潜水器も付けず潜ってゆけとは?![#「?!」は一文字、第3水準1−8−77、232−4] しかし、折竹といえば名だたるエキスパート。あるいはと、折竹の命にしたがった二人が危なげに浮き木をわたり、最終点の「五本の大蕨」へきた。そこで、最後の言葉を折竹がいった。
「沼の底へゆくということは依然として変らない。二人は、いっさいなにも考えず、私のとおりにする。私が、飛びこんだ個所へ、躊躇《ちゅうちょ》せずに飛びこむ。いいか」
そういって、折竹は大きく息を吸った。日没の、血紅の雲をうつしてまっ赤に染った沼土は、さながら腐爛《ふらん》物のごとく毒々しく美しい。と、彼のからだがスイと浮き木を離れ、ずぶりと泥にはまったかと思うと、たちまち見えなくなった。二人は、相次いで飛びこんだ。すると、泥のために息詰まるような苦しさが、ほとんど一、二瞬間後には消え、はっと空気を感じた。おやっと、息を吸えば肺に充《み》つる嬉《うれ》しさ。
「折竹さん、ここ、何でしょう? どこに、いらっしゃいますの?」ロイスが、あまりといえばあまりなこの不思議
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