まれて、腰骨を蹴られてポンと抛《ほう》りだされるが、これも挙措《きょそ》動作がひじょうな誇張のもとに行われる、南米のラテン型の一つ。おやおや、ここの芸人が一人お払い箱になるらしい。どんな奴だ、さだめし肩をすぼめて悄《しょ》んぼりと出てくるだろうと――多少酔いも手伝った折竹が、そのスーツケースを手にもって、いま現われるかと入口を見守っていたのだ。
まったく、こうして佇《たたず》んだ数秒間さえなければ、かの怪奇の点では奥アマゾンを凌《しの》ぐといわれる、水棲人《インコラ・パルストリス》のすむあの秘境へはゆかなかったろうに。Esteros de Patino《エステロス・デ・パチニヨ》―すなわち「パチニョの荒湿地」といわれる魔所。
まもなく、その入口をいっぱいに塞《ふさ》いでしまいそうな、大男が悠然と現われた。舗道へ降りると、ちょっと足もとのあたりを一、二度見廻していたが、すぐ折竹に気がついたらしく、
「やあ大将《カピトーン》、拾っといてくれたね」
「番をしてたよ。どうせ、出てけ――を喰わされるようじゃ、だいじな財産《もん》だろう。さあ、たしかにお渡ししたよ」
しかし、此奴《こいつ
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