んて、俺にゃどうしても出来ん。カムポスはつねに草原《パンパス》の風のごとあれ、心に重荷なければ放浪も楽し――と、俺は常日ごろじぶんにいい聴かしてるんだ」
「詫《あや》まる」と折竹はサッパリと言って、
「だが、惚れたなら惚れたで、別のことじゃないか。君が、生涯に一人だけ逢うというその女性が、ロイスさんのように、俺にゃ思えるよ」
「くどいね、大将は」カムポスも、辟易《へきえき》してしまって、
「いかにも俺は、あの人が好きだよ。好きで好きで、たまらんというような人だ。これだけ言ったら、大将も気が済んだろう」と、なにかを紛《まぎ》らすように笑うのである。
しかし、事実水棲人とはまったくいるものか? また、カムポスが逢った三上の姿は亡霊か、それとも生態が変って、沼土の底でも生きられるようになったのかと、いつも四六時中往来する疑問は、その二つよりほかになかった。カムポスが、「ロイスさんの執念にもまったく恐れ入ったよ。よくまあ、五日間ぶっ続けに水面ばかり見ていられるもんだ」
「そりゃ、君がみた三上は幽霊じゃないだろう」
と、はじめて折竹がその問題に触れたのだ。
「といってだよ、たとえ
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