惨な死の色をしたこの沼地のうえには、まばらな細茅《サベジニヨス》のなかから大蕨《フェート・ジガンデ》が、ぬっくと奇妙な拳《こぶし》をあげくらい空を撫でている。生物は、わずか数種の爬虫《はちゅう》類がいるだけで、まったく、水掻きをつけ藻をかぶって現われる、水棲人《インコラ・パルストリス》の棲所《すみか》というに適わしいのである。すると、ここへ来て五日目の夜。
 陰気な、沼蛙《ぬまがえる》の声がするだけの寂漠たる天地。天幕《テント》のそばの焚火《たきび》をはさんで、カムポスと折竹が火酒《カンニャ》をあおっている。生の細茅《サベジニヨス》にやっと火が廻ったころ、折竹がいいだした。
 「君は、ロイスさんにどんな気持でいるんだね」
 「………………」
 「そういう気配は、君がはじめてロイスさんをみた、その時から分っていたよ。惚れもしなけりゃ五十万ミルを棒に振ってまで、君がわざと負ける道理はないだろう」
 「俺はまた、大将という人はサムライだろうと思ってたがね」とカムポスがじつに意外というような顔。
 「俺は、すべてをロイスさんにうち明けにゃならん義務を背負っている。義務であるものに金を取り込むな
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