ょからの化物だ。すると、そこへカムポスがううんと嘆声を発して、
「では、ロイスさん、こっちの話をしますからね。私が、なぜあなたに対して勝とうとはしなかったか、勝てば、勝てたのをなぜ負けたかというと……、ロイス・ウェンライトという夢にも出る名の婦人が、貴女だと始めて知ったからです。
水棲人が、私に投げてよこした葉っぱの化石みたいなものには、じつをいうと一面の文字が書かれてあった。しかし、それを私が掻《か》き寄せたために、その文字がほとんど擦《す》れてしまった。ただ、残ったのがあなたの名の、ロイス・ウェンライトというだけ……」
「ああ、そんなことを聴くと、泣きたくなりますわ。三上は、きっとダイヤを報酬にするからこれを私に届けてくれと、あなたにお願いしたのでは……?」
奇縁とは、じつにこうした事をいうのだろう。三上が、生きてか、それとも死んでの亡霊かはしらぬが、とにかく、愛するロイスへ通信を頼んだ。それが、この話のなかのたった一つの現実。他は、すべて怪体《けったい》にも分らなすぎることばかりだが、ロイスの身になってみれば……。
事実、ロイスの熱情はこれなりではすまなかった。よしんば
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