続けた。
 「でも、結局は断念《あきら》めねばなりませんでした。随分、金を惜しまずあらゆる手段を尽しましたが、三上の行方はどうしても分らないのです。私は、半分|自棄《やけ》でリオへ来て、話に聴いたナイトクラブとはどんなところだろうと、なんだか覗《のぞ》くような気持で『恋鳩』へゆきました」
 「では、どうして、カムポスと一勝負という気になりましたね。貴女《あなた》に、五十万ミルぐらいの金は何でもないでしょうが」
 「それは」とロイスの顔がきゅうに火照《ほて》ってきて、「カムポスさんが、ご覧になった水棲人の話。あれを聴いて、私がなんでそのままに出来るでしょう。水棲人の胸にあった拳形《こぶしがた》の痣《あざ》と、ちょうど同じものが三上にもあるのです」とこみあげてくる激情の嵐に、ロイスはもう、吹きくだかれたよう。
 「ですから、カムポスさんは三上をみたんでしょう。あの水棲人とは、三上ですわ」
 とたんに、室内がしいんとなった。三上が、魔境「蕨の切り株」にいて、水棲人とは?![#「?!」は一文字、第3水準1−8−77、228−9] 沼土の底にいて、なおかつ生きられるとすれば、三上という男はさいし
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