人を救うと、三上は単身パタゴニアに赴《おもむ》いたのだ。
そこは、氷雪の沙漠、不毛の原野、陰惨な空をかける狂暴な西風、土人は、食に乏しく結核となって斃《たお》れてゆく。これでは、百の薬を投じようと到底救い得ぬ、結局保護区をもうけ氷の沙漠《さばく》から移さねば……と。
三上の日本人の熱血と人道愛とが、ここに合衆国全土に呼びかける大運動になろうとした。その矢先、彼の姿がふいに、消えてしまったのだ。それ以来、一年にもなるが依然三上の行方は、杳《よう》として謎のように分らない、という、ロイスの話を一通り聴きおわると、折竹がやさしく上目使いをして、
「お嬢さんは、では三上君をお愛しになってる……」
「はあ、二人ともおなじ大学でしたし……」
とロイスも燃えるような目になってくる。
「そんな訳で、三上はアルゼンチン政府にたいへん憎まれておりました。それで、たぶんアルゼンチンのどこかに秘密囚となっているのだろう――と、私はそう考えて南米へまいりまして、これでも、手を尽してどんなに探しましたでしょう」
額を支えた手で、卓子がかすかに揺れている。愛するものの不幸を訴えるように、ロイスはなおも
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