郎は、いわゆる二世中の錚々《そうそう》たるもの。在学中、はやくも化石素《ペトリン》堆積説なるものを発表した。
 化石素とは元来植物にあるもので、一つの種類が、絶滅に近づくと組織中にあらわれてくる。たとえば、松は枯れればそのまま腐敗するが、杉は、神代杉という埋れ木になることが出来る。いわば、これは化石になる成分で、それが現われたものは絶滅に近いというのだ。で三上は、人間の血のなかにもそういったものがある。なかには現にもう現われている種族があるといって……、アルゼンチン人の大部分である雑種児の血と、いま同国の南部、パタゴニア地方で、絶滅に瀕《ひん》しつつあるパタゴニア人の血とを比べたのだ。
 すると、アルゼンチン人にはある化石素《ペトリン》が、パタゴニア人にはない。つまり、まさに滅びようとするパタゴニア人のほうが、かえって種族的には若いということになったのだ。そこで三上は、それをアルゼンチン政府攻撃に利用して、パタゴニア人の減少は自然的な原因ではなく、冷酷なアルゼンチン政府が保護区をつくらずに、むしろ滅んでしまうのを願わしく思っているのだろう。俺は、世界の輿論《よろん》に訴えてもパタゴニア
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