、いかにダイヤをみせ渓谷性金剛石土《カスカリヨ》を示すとはいえ、誰が十二分の信頼をこの男にかけようか。まったく、こうした場所に出入りをする富有階級の人間が、怪しさ半分欲半分で、まずこの程度ならばフイにしてもというのが、七万ぐらいのその辺だったのであろう。カムポスは、もっとこの話を現実付けねばならぬと思って、
 「じゃ、その礦地とはいったい何処《どこ》にあるか。また、どうして俺がそれを見付けたかということを、これから諸君にかい摘んで話そう。しかしだ、今度は七万ミルなんてえ、吝《しみ》ったれは止めて貰うよ。もし、そんな声が出たらそれっきりにして、俺はサッサと帰るからね」
 それからカムポスは、賭博場《キヤジノ》はいうに及ばず踊り場からキャバレーまでのほとんど「恋鳩《ポムピニヨス・エナモール》」の全客をあつめたと思われるほどの、黒山の人を相手に滔々《とうとう》と言いはじめたのである。その第一声が、まず人々に動揺をおこさせた。
 「ところで、その新礦地があるのは、“Gran Chaco《グラン・チャコ》”だ。どうだ、グラン・チャコとは初耳だろう」
 南米に、まだ開拓のおよばぬ個所が四つほどある
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