態。
 「オイオイ、見てばかりいないで、なんとか言ってくれ」と無言の一座に業《ごう》が煮えてきたか、カムポスの声がだんだん荒くなってくる。「いいか、俺はこの五粒のダイヤを、売ろうてんじゃない。俺が一か、八かの抵当にしようというのは……ダイヤよりも土のほうなんだ。ねえ、この渓谷性金剛石土《カスカリヨ》がサラサラッと泣いて、十億《ビルリオン》、一兆億《トリリオン》のこんないい音が、欲張りどもに聴こえないかって言ってるぜ」と土を掬《すく》ったりこぼしたりしながら、最後にカムポスが条件を言った。
 「ところで、俺はこの世界にまだ一度も現われていないダイヤの新礦地の所在を賭ける。それにはまず、諸君の誰かに値を付けてもらう。そして、それだけの金額のご提供をねがう。いないか?![#「?!」は一文字、第3水準1−8−77、217−15] 俺を負かして所在を吐かせるやつは」
 即座《そくざ》に、室の隅のほうで五万ミルという声がしたが、カムポスはふり向きもしない。それから、五万五千、六万と小刻みにいって七万ミルまでくると、そこで声がハタとなくなってしまった。
 第一、風のごとくに現われたこの不思議な人物が
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