ジサンという子供の人気もの――折竹にはそういう反面もある。童顔で、いまの日本人には誰にもないような、茫乎《ぼうこ》とした大味なところがある。それに加えて、細心の思慮、縦横の才を蔵すればこそ、かの世界の魔境未踏地全踏破という、偉業の完成もできたわけだ。その第五話の「水棲人」とは?……折竹がやおら話しはじめる。
「ところで、これは僕に偶然触れてきたことなんだ。『神にして狂う《リオ・フォルス・デ・デイオス》[#ルビは「神にして狂う」にかかる]』河攻撃の計画の疎漏《そろう》を、僕が指摘したので一年間延びた。そのあいだ、ぶらぶらリオ・デ・ジャネイロで遊んでいるうちに、偶然『水棲人《インコラ・パルストリス》』に招きよせられるような、運命に捲《ま》きこまれることになった。
えっ、その水棲人とはどこにいるって?![#「?!」は一文字、第3水準1−8−77、205−15] まあまあ、急《せ》かせずにブラジル焼酎《ピンガ》でも飲んでだね、リオの秋の四月から聴きたまえ」
*
リオの、軟微風《ヴエント・モデラード》とはブラジル人の自慢――。
棕梠《しゅろ》花のにおいと、入江の柔かな鹹風《
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