意味かね」
 「そうとも」と彼は平然と頷《うなず》く。しかし、人類にして水棲の種族とは、いかになんでもあまりに与太すぎる。こっちが真面目なだけに腹もたってくる。
 「おいおい、冗談もいい加減にしろ」と、私もしまいにはたまらなくなって、言った。「人間が、蛙や膃肭獣《おっとせい》じゃあるまいし、水に棲めるかってんだ。サアサア、早いところ本物をだしてくれ」
 すると、折竹はそれに答えるかわりに、包みをあけて外国雑誌のようなものを取りだした。Revistra Geografica Americana《レヴイストラ・ジエオグラフイカ・アメリカナ》――アルゼンチン地理学協会の雑誌だ。それを折竹がパラパラとめくって、太い腕とともにグイと突きだしたページには、なんと、“Incola palustris《インコラ・パルストリス》”沼底棲息人と明白にあるのだ。私は、折竹の爆笑を夢の間のように聴きながら、しばしは茫然たる思い。
 「ハハハハハ、魔境やさんが、驚いてちゃ話にもならんじゃないか。どれ、この坊やをおろして、本式に話すかね」
 折竹の膝には、私の子の三つになるのが目を瞠《みは》っている。ターザンのオ
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