ーレットの金掻き棒《ロード》[#ルビは「金掻き棒」にかかる]の音。二人が、内部のキャバレーへはいると、パッと電気が消える。
 ※[#「※」は歌記号、第3水準1−3−28、215−9]これは白い《エステ・エ・ブランコ》[#ルビは「これは白い」にかかる] 白いは肌《ペルレ・エ・ブランコ》[#ルビは「白いは肌」にかかる]
 と、舞台の歌声とともに緞帳《どんちょう》があがるが、だんだん、その白いというのが肢だけでなくなるというのが、「恋鳩」のナイトクラブたるところだ。それから、キャバレーを出てちょっと口を湿しているうちに、ふいにカムポスがなにを見たのか、ボーイを呼びとめてあれ[#「あれ」に傍点]と顎《あご》をしゃくって見せた。
 「君、あのご婦人はなんて方だね」
 ボーイは、ちょっとその方向をみるや、にこりと笑って、
 「さすが、旦那さまはお目が高ういらっしゃる。あの、ちょっと小柄な金髪《ブロンド》でございましょう。お計らいなら手前致しますが、なんせい、美しいだけに《エー・ボニート》[#ルビは「美しいだけに」にかかる]、ちょっと高価うございますよ《マース・カーロ》[#ルビは「ちょっと高価うございますよ」にかかる]」
 すると、カムポスはそれを遮《さえぎ》って、違うと叱《しか》るように言った。
 「あれじゃない。ホラ、あの右にいる黒いドレスの方だ。あれは、まさかここの妓《こ》じゃあるまい」
 「ほう、あの方」とチップを貰ったボーイが、にこっとなって言った。「あの方は、グローリァ・ホテルにご滞在中とかでございます。ここでは、たまにルーレットをおやりになるくらいのもんで、マアこんなところへ何でお出でになっているのかと、手前どもも不審に存じあげておりますんです」
 その婦人は、もう娘という年ごろではないかもしれぬ。面長《おもなが》で、まさに白百合とでもいいたい上品な感じは、まったく周囲が周囲だけに際だって目立つのである。カムポスは、妙に熱をもったような瞳でじっとその婦人をみていたが、まもなく、運定めをする賭け場へはいっていった。

   魔境「蕨の切り株《トッコ・ダ・フェート》[#ルビは「蕨の切り株」にかかる]」

 そこは、人間の運がいろいろに廻転し、おい、奢るぞ《ヴォツセ・ケル・マタ・ビツシヨ》[#ルビは「おい、奢るぞ」にかかる]――と勢いよく出てくるのもあれば、曲ってる《ホー
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