bクが自嘲気味にいうのだった。
やがて、芯の泥氷部をさけて二、三時間も掘ると、なつかしい外光がながれ入ってきた。
出ると、大烈風はもう背後になっている。そこは先刻は岩陰でみえなかったが、まるで色砂を撒《ま》いたような美しい蘚苔《こけ》が咲いている。ところが、前方をながめれば、これはどうしたことか、そこは、流れをなす堆石の川だ。せっかく、大烈風を破ったと思えば危険な堆石のながれ。四人は、そこでもう前方へ進めなくなってしまった。
「これまでだ。もう、われわれは断念《あきら》めようじゃないか」とダネックが力なげに言いだした。「僕らは、あの危険な開口をのぼり、大烈風をやぶった。それだけでも、前人未達の大覇業《だいはぎょう》ということができる。帰ろう。今夜は蘚苔《こけ》のなかへ寝て、明日は戻ろう」
しかし、それがもう出来なくなっていたというのは、なにも、さっき掘った洞が塞ったというのではない。とにかく、その夜四人を包みはじめた不思議な力をみれば分る。つまり「天母生上の雲湖《ハーモ・サムバ・チョウ》[#ルビは「天母生上の雲湖」にかかる]」の掟に従わされたのだ。その夜、なにやらケティが草に言い
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