ヘじめた。
「マァニの草、あたしに惚れたって、お前じゃ駄目よ。そんなに、べたべた付着《くっつ》いたって、あたしゃ嫌」
 よく、野|葡萄《ぶどう》の巻|鬚《ひげ》の先の粘液が触れるように、ケティにベタベタ絡《から》みついてくる草がある。その情緒を知らせる微妙な力が、彼女をじわりじわりと包んでいった。そこへ、相応じたようにケルミッシュも言う。
「そうかね、この草は寒いと言っている。サアサア、がたがた顫《ふる》えなくても僕が暖めてやる」
 それは、咳嗽菽豆《くしゃみそらまめ》に似た清潔好きな小草で、塵《ごみ》がはいると咳嗽《くしゃみ》のようなガスをだす。そして、いきんだように葉をまっ赤にして、しばらく、ぜいぜい呼吸《いき》をきるように茎をうごかしている。そういう植物の情緒や感覚が触れてくる、二人はもう普通の人ではない。ダネックも折竹もつつき合うだけで、見るも聴くも気味悪そうに黙っていた。魔境「天母生上の雲湖」へ溶けこんでゆくこの二人を、救い出すのはどうしたらいいのだろう。
「サア、行こう。ここで愚図愚図してたって仕様がないよ、君」翌朝、さんざん押問答のすえ焦《い》らついてきたダネックが、語気
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