人外魔境
天母峰《ハーモ・サムバ・チョウ》
小栗虫太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)天母峰《ハーモ・サムバ・チョウ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)北|雲南《うんなん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)折竹[#底本では「竹折」の誤り]
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  神踞す「大聖氷」

 わが折竹孫七の六年ぶりの帰朝は、そろそろ、魔境、未踏地の材料も尽きかけて心細くなっていた私にとり、じつに天来の助け舟のようなものであった。では、それほど私を悦ばせる折竹とはいかなる人物かというに、彼は鳥獣採集人としての世界的フリーランサーだ。この商売の名は、海南島の勝俣翁によってはじめて知った方もあろうが、日本はともかく、海外ではなかなかの収入になる。ことに折竹は、西南奥支那の Hsifan territory  《シフアン・テリトリー》――すなわち、北|雲南《うんなん》、奥|四川《しせん》、青海《せいかい》、北チベットにまたがる、「西域夷蛮地帯《シフアン・テリトリー》」通として至宝視されている男だ。
 たとえば、フィリッピ
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