ンのカガヤン湖で獲《と》れる世界最小の脊椎動物、全長わずか二分ばかりの蚤沙魚《リリプチャン・ゴビー》を、北雲南|麗江《リーキャン》連嶺中の一小湖で発見し、動物分布学に一大疑問を叩きつけたのも彼。さらに、青い背縞《せじま》のある豺《ジャッカル》の新種を、まだ外国人のゆかぬ東北チベットの鎖境――剽盗《ひょうとう》 Hsiancheng 《シアンチェン》族がはびこる一帯から持ちかえったのも彼だ。そうして今では、西域夷蛮地帯《シフアン・テリトリー》のエキスパートとして名が高い。
 しかし折竹は、どうも採集人というそれだけではないらしい。理学士の彼が教室にとどまらず、とおく海外へながれて西南奥支那へ入りこみ、ほとんどを蛮雨裡に探検隊とともに暮していることは……いかに自然児であり冒険家である彼とはいえ、少々それだけは、首肯しかねる節があるように思われる。
 事実、折竹[#底本では「竹折」の誤り]には別の一面があるのだ。彼は、外国探検隊員という絶好の名目を利用して、その都度、西南奥支那の秘密測量をやっている。日本が他日、この地方への大飛躍を試みるとき、その根底となる測地の完成が、いま彼の双肩にかかっ
前へ 次へ
全53ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング