ニは、お二人には説明も要りますまいが、遠い、遠い昔入りこんだ蒙古人の血が、ぼつりと、数万年後のいま白人種にでるのをいうのです。彼らは、蒙古人のするとおりの真似をする。胡坐《あぐら》をかく、手|掴《づか》みで食い、片手で馬を捌《さば》く。しかし、智能の程度は小学生をでぬ。とマア、こういったもんです。
 でケティは、もとサーカスの支那|驢馬《ろば》乗りでした。そして白痴なもんで虐待《ぎゃくたい》をうけていた。すると、その金髪|碧眼《へきがん》に蒙古的な顔という、奇妙な対照が僕の目をひいたのです。もともと私は、白人文明の破壊性が心から厭で、東洋思想に憧れればこそ、梵語などをやりましたが……。一夕、ケティをよんで飯を食わしたことがあるのです。
 その席上、偶然私がとり出した『宣賓《シュウチョウ》の草漉紙《パピルス》』をみてケティがなにやら音読のようなものを始めた。そこで私は、学校によんで録音をさせました。それから、時経てからまたケティに読ます。しかし、やはりなん度読ましても、おなじように読む」
「なるほど」ダネックが始めて相槌をうった。
「つまり、私は意味は分るが音読ができぬ。ところが、ケティ
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