ヘ意味は分らぬが音読はできる。と、こんな工合で、はじめて『天母生上の雲湖《ハーモ・サムバ・チョウ》[#ルビは「天母生上の雲湖」にかかる]』の言葉が完全に読めたわけです。ケティは蒙古型癡呆《モンゴロイド》というよりも、天母型癡呆《ハーモロイド》ですよ」
「すると」と折竹が口をはさんで、「きっと太古に、ヨーロッパへきた天母《ハーモ》人の一族があったのでしょう」
「そうです。その血が、なんでいまの白人種に絶無といえるでしょう。ですから、私は東洋思想に溶けこんでいるせいか、有色人|蔑視《べっし》をやる白人種を憎みます。ナチスの浄血、アングロサクソンの威――かえって彼らは、じぶんらにある創成の血を蔑《さげす》んでいる」
続いてケルミッシュは、いずれなにかの役にきっと立つと思うので、ケティを連れてきたといった。世界に一人、秘境「天母生上の雲湖」の言葉を読む白痴のケティ、その彼女を連れて魔境のなかへ消えようという……このケルミッシュの探検ほどおよそ奇怪なものはない。
折竹は、それから懸命にダネックを説いた。途中は、麗江《リーキヤン》のあたりから二万フィート級の嶺々が、約七、八百キロのあいだをぎっ
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