ニ、ダネックも折竹も唖然《あぜん》と目をみはった。これが、ケルミッシュの同伴者とはますます出でて奇怪だ。癡呆《ばか》を連れてきてあの大魔境へのぼる?![#「?!」は横一列] さっきの紅蓮峰《リム・ボー・チェ》の山嶺のことでグワンとのめされた二人は、いよいよ神秘錯雑をきわめるこのケルミッシュのために、いまは、引かれるままの夢中|裡《り》の彷徨《ほうこう》だ。
日が落ちた。巨竹の影が消え角蛙《つのかわず》が啼《な》きだした。暑さはいくぶん退いたが、二人のこの汗は。
大氷河の胎内へ
その夜から、ダネックの懊悩《おうのう》がひどくなった。なんの、ペテン師、売名漢と初手から見くびったケルミッシュが、さながら人間以上のおそろしい力をもっている。もしも、彼ダネックが優秀な科学者でなければ……、ケルミッシュもあの娘も魔境「天母生上の雲湖《ハーモ・サムバ・チョウ》[#ルビは「天母生上の雲湖」にかかる]」の、ユートピアの住人がひそかにあらわれたくらいに思うだろう。
だが、この場合|懼《おそ》れるのは登攀の成功だ。魔境の大偉力に対するダネックの科学より、むしろ神秘対神秘力でケルミッシュではない
前へ
次へ
全53ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング