フ山嶺の写真は一つしか発表してない。西側からのは、実をいうと写真にもとってないのだ。それを、万里の雲煙をへだてたヨーロッパにいて知るとは、なんという化物のような男だろうか。
ダネックが、打ちのめされたように茫然《ぼうぜん》となっているところへ、ケルミッシュのもの静かな声が続く。
「これで、ダネック教授もお分りになったことと思う。私は、今次の探検についてあなたの協力を求める。いや、ぜひお力添えを得たいと思う。それに就いて……」
と言いかけたとき、バタンと扉があいた。西日が叢葉《むらば》のすきから流れるなかへ金髪が燃え、ひとりの、白人女がふらふらと入ってきた。
「ああ、ケティ」ケルミッシュが、ちょっと眉をしかめ立ちあがって肩を抱いた。
見ると、金髪の色といい碧眼《へきがん》の澄みかたといい、一点、非のうちどころのないドイツ娘である。しかし、それ以外の部分はなんという変りかた?![#「?!」は横一列] 厚い唇をだらりと空けた様《さま》。
顔はだだ広く鼻は結節をなし、ほそい目の瞼がきりっと裂けている――まさに、このほうは完全な蒙古人だ。そのうえ、一目で白痴であるのが分るのだ。
これか
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