、》っと暗くなった。それが薄らぐと崩壊場所の奥のほうがぼうっと明るんでいる――穴だ。それから、紆余曲折《うよきょくせつ》をたどって入口のへんにまで出た。そこには、最近のものらしい四、五匹が死んでいる。マヌエラ、私は洞をでてはじめて外の空気を吸った。いよいよ私は悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]のなかにでたのだ。
 夜だった。空には、濛気《もうき》の濃い層をとおして赭《あか》色にみえる月が、すばらしく、大きな暈《かさ》をつけてどんよりとかかっている。私はいまだに、これほど超自然な不思議な光輝をみたことはない。中天にぼやっとした散光をにじませ、その光はあっても地上はまっ暗なのだ。
 すると、この森閑とした死の境域へ、どこか遠くでしている咆哮《ほうこう》が聴えてきた。それが、近くもならず遠くもならず、じつにもの悲しげにいつまでも続いている。と、それから間もなくのこと、ようやく、暁ちかい光がはじまろうとするところ、ふいに私の目のまえにまっ黒なものが現われた。ぎょっとして、それを見つめながら、じりじりと後退《あとじさ》っていった。
 マヌエラ、なんだと思うね。カークほ
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