A殺されるものが生きる一つの偶然が潜んでいたのだ。彼は、水はなくとも砂が動くことは知らなかった。徐々に、彼のからだが前方にはこばれてゆき、やがて、あっという間もなく地上から消えてしまったのである。
 それなり、座間の姿はけっして現われてこなかった。ただわずかな間に消えてしまったことが、まるで秘境「悪魔の尿溜」の呪《のろい》のように、マヌエラさえ思うよりほかになかった。

   遂に「悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]」敗る

 座間は死に、残る二人は助けられた。
 マヌエラは、疲労と悲嘆のあげく床についてしまったが、それから一月後に一通の手紙が舞いこんできた。上封は、ヌヤングウェ駐在英軍測量部とあり、ひらくとなかにはもう一通の封書がある。それは、泥によごれ血にまみれてはいたが、目を疑うほどの驚きは、愛《いと》しいマヌエラへ、シチロウ、ザマより――とあるのだ。マヌエラは指先を震わせて封を切った。

 マヌエラよ、天罰が私にくだった。あなたを、このうえ“Latah《ラター》”で苦しませるのは忍びぬと思いそっとあの断崖からつき落そうとしたとき……私は、砂流《サンド
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