Sリラのことを“Soko《ソコ》”という愛称で呼んでいる。私は声を荒らげるよりも呆気《あっけ》にとられて、
「なぜいかんのだ。ゴリラが獲《と》れるなんて千載に一遇ではないか」
「それがです。旦那は、野象《ぞう》の穴へ落ちたとき、磁針《ほうみ》をお壊しなすったので、儂《わし》らは、どっちへどう出たらこの森を抜けられるか、いま途方に暮れているでがす。そこへ、あのゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」にかかる]が教えてくれたでがすよ。つまり、おらが歩んでゆく先が北に当るぞちゅうて……」
「そんなことが、お前にどうして分るね?」
「あのゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」にかかる]は、いま森の墓場へ死ににゆこうとしているのだ。それが、わしらにはゆけねえ悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]にあるちゅうだ。ゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」にかかる]はな、雨が降るとあんなには歩きましねえ。ぼんやりと、手を頭にのせてじっと蹲《しゃが》んでおりますだ。わしらは、幼《ちっ》けなときからゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」にかかる]をみてるだが、雨んなかを、死神にひかれて歩かせられてゆく
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