ェこの条件にぴったりと嵌《はま》っているわけだが、これも作者の創作と思われては困るから、歴然としたパラッフィン・ヤング卿の赤道アフリカ紀行、「コンゴからナイル河水源《カブト・ニリ》[#ルビは「ナイル河水源」にかかる]へ」のなかの一記事を引用しよう。

 晴天だと、ルウエンゾリ山が好箇の目標になるのだが……、降りだして雨霧《もや》に覆われてからは、ただ足にまかせて密林のなかを彷徨《さまよ》いはじめた。泥濘《ぬかるみ》は、荊棘《とげいばら》、蔦葛《つたかずら》とともに、次第に深くなり、絶えず踊るような足取りで蟻《あり》を避けながら、腰までももぐる野象の足跡に落ちこむ。
 すると、前方約百ヤードほどのあたりに、ぴしぴし枝を折りながらドス赭《あか》いものが動いてゆく。ゴリラだ! 私はこのコンゴの奥ふかくにくるまで、ゴリラには一度も逢わなかったのだ。そこで、ほとんど衝動的に連発銃《ウィンチェスター》をとりあげようとした。すると、土人が一人飛びついて銃をおさえ、
「旦那、あのゴリラ《ソコ》[#ルビは「ゴリラ」にかかる]は恩人でがす。殺すなんて、英人《レコア》の旦那らしくもねえでがすぞ」
 土人は、
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