トいたのが驚いたことに雲のように群れている微細な昆虫だったのです。横三十マイルにもひろがる悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]の上空をぎっしりと埋めて、おそろしい蚊蚋《かぶゆ》の大群が群れているのです。マラリア、デング熱の病原蚊、睡眠病の蠅、毒蚋、ナイフのような吻《くち》の大馬蠅の Tufwao《チュファ》 ああ、その大集雲!
 悪魔の尿溜に、よしんば金鉱が隠されてあろうとダイヤモンドが転がっていようと、あるいは珍奇獣虫がいようと原人がいようとも、この永劫《えいごう》霽《は》れようとも思われない毒の羽虫の雲を除くには、恐らくガスマスクをつけ防虫完備の工兵が、優に一師団をもってしても数年はかかろうかと思われます。

 これが飛行家の観察した悪魔の尿溜だが、つぎに、その奥にあるといわれる巨獣の墓場のことである。おそらく読者諸君も、ゴリラや黒猩々《チンパンジー》などの類人猿や、野象にかぎって死体をみせぬのをご承知であろう。してみると、どこか到底人間には行けぬ密林の奥にでも、彼らの死場所がなければならない。悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]
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