イ粋してみよう。講演者は、ナイロビ、ムワンザ間のウイルスン航空会社《エアウェーズ》のファーギュスンという操縦士だ。

 私も、悪魔の尿溜攻撃は、数回にわたって試みましたが、結局空からも征服は不可能という惨めな結論を得たばかりです。
 飛行機万能の現代では、航空機の前に未踏地はなし――とまでいわれるのに、なぜ悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]だけには敗退したか? 悪気流か? それも一因でしょう。
 だいたい、悪魔の尿溜の北側は大絶壁になっております。そのうえがゼルズラと呼ばれる流沙地帯なのですが、そこは、上空の空気が非常に稀薄《きはく》で、よく沙漠地方におこる熱真空《ヒート・ヴァキューム》ができるのです。
 そこへ来ると飛行機はもうよろよろと蹌踉《よろめ》きます。しかし、絶壁下にひろがる悪魔の尿溜の湿林は濃稠《のうちょう》な蒸気に覆われてまったく見通しが利きません。その靄《もや》か、沼気《しょうき》か、しらぬ灰色の海に、ときどき異様な斑点があらわれるのです。
 私は思い切って、最後の飛行の時ぐっと下降してみました。ところが、いままで、濃霧《ガス》か沼気かと思っ
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