W》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]の片影をとらえたようでも、森はいよいよ暗く涯《はて》もなく深いのだ。
 すると熱の高下の谷のようなところで、ヤンがマヌエラをそっと葉陰に連れこんだ。
「あなたは、モザンビイクに帰りたいとは思いませんか」
 突然のことに、マヌエラはきょとんと目をみはった。蚊帳ヴェールを透いて、なんでこの期になって思いださせようとするのかと、涙さえ恨めしげにひかっている。
「どうしました? なぜ、黙っているんです」
「疲れたんですわ。あたし、なにか言おうにも、言い表せないんです」
「いや、モザンビイクへ帰れる確実な方法が唯一つあるんです。それは、バイエルタールのところへまた引っ返すことだ。ねえ、あの男は白人の女を欲している」
 そういって、ヤンは蜥蜴《とかげ》のような目をよせてくる。足がふらついて、病苦に痩《や》せさらばえた顔は生きながらの骸骨だ。マヌエラはぞっと気味わるくなってきた。おまけに、座間とカークは泥亀を獲りにいっていない。
「僕とあなたがゆきァ、バイエルタールがなんで殺しましょう。そうして観念してあすこにいるうちにゃ、いつか抜けだす機会がきっとくると思うん
前へ 次へ
全91ページ中65ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング