オった眼でマヌエラをみる、顔は醜い限りだった。
第三日――。
ヤンが、その日から肺炎のような症状になった。漂徨《ひょうこう》と泥と瘴気《しょうき》とおそろしい疲労が、まずこの男のうえに死の手をのべてきたのだ。ひどい熱に浮かされながら、幹にすがり、座間の肩をかりて蹌踉《そうろう》とゆくうちに、あたりの風物がまた一変してしまった。
大きな哺乳類はまったく姿を消し、体重はあっても動きのしずかな、王蛇《ボア》や角喇蜴《イグアナ》などの爬虫《はちゅう》だけの世界になってきた。植物も樹相が全然ちがって、てんで見たこともない根を逆だてたような、気根が下へ垂れるのではなくて垂直に上へむかう、奇妙な巨木が多くなった。それに、絶えず微震でもあるのか足もとの地がゆれている。
してみると、土の性質が軟弱になったのか、それとも、地|辷《すべ》りの危険でもあるのだろうか? この辺をさかいに巨獣が消えたのと思い合わせて、これがたんなる杞憂《きゆう》ではなさそうに考えられて来た。いまにも足もとの土がざあっと崩《くず》れるのではないか――踏む一足一足にも力を抜くようになる。しかしここで、悪魔の尿溜《ムラムブウェ
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