カ木《やどりぎ》だけの世界になってきた。これが、パナマ、スマトラと中央アフリカにしかない、ジャングルの大奇景なのである。
 つまり、寄生木や無花果《いちじく》属の匍匐《ほふく》性のものが、巨樹にまつわりついて枯らしてしまうのだ。そのあとは、みかけは天を摩《ま》す巨木でありながら、まるで綿でもつめた蛇籠《じゃかご》のように軽く、押せば他愛もなくぐらぐらっと揺れるのである。森が揺れる。一本のうごきが蔦蔓《つたかずら》につたわって、やがて数百の幹がざわめくところは、くらい海底の真昆布の林のようである。四人とも、それには幻を見るような気持だった。
 ちょうど正午ごろに、大きな野象らしい足跡にぶつかった。つぶれた棘茎《きょくけい》や葉が泥水に腐り、その池のような溜りが珈琲《コーヒー》色をしている。しかし、そこから先は倒木もあって、わずかながら道がひらけた。しかしそれは、ただ真西へと悪魔の尿溜のほうへ……まさに地獄への一本道である。
 疲労と絶望とで、男たちはだんだん野獣のようになってきた。ヤンがマヌエラ共有を主張してカークに殴《なぐ》られた。しかしカークでさえ、妙にせまった呼吸《いき》をし、血ば
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