ヘ、絶えず斧《おの》をふるって道をひらいてゆく。しかし、蛮煙瘴雨《ばんえんしょうう》に馴れたこの自然児も、わずか十ヤードほどゆくのに二、三時間も死闘を続けるのでは、もうへとへとに疲れてしまった。一本の、馬蔓の根がとおい四、五町先にあって、切るとずうんずうんと密林がうめきだし、しばらくカサコソと何者かが追ってくるような無気味な音をたてている。カークも全精力がつき、ぐたりと樹にもたれた。
「どうする? なにか、こうしたらというような見込みでもあるかね」
「どうするって?![#「?!」は一字] 一体どうなりゃいいんだ」ヤンが、ぎょろっと血ばしった目でふり向いた。
「われわれは、いっそバイエルタールに殺されちまやよかったんだ」
とおく、一つ、鉛筆のような陽の縞《しま》が落ちている。そのほかは、闇にちかいこの密林のなかは、沢地の蒸気をうずめる塵雲《じんうん》のような昆虫だ。それを、蚊帳《かや》ヴェールで避ければ布目にたかってくる。もう、悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]へはいくばくもないのだろう。
ところが、そういう筆舌につくせぬ難行のなかで、一人ドドだけは非常に
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