<Kテリウム・グラス》の犢《こうし》ほどの葉や、スパイクのような棘《とげ》をつけた大|蔦葛《つたかずら》の密生が、鬱蒼《うっそう》と天日をへだてる樹葉の辺りまで伸びている。また、その葉陰《はかげ》に倨然《きょぜん》とわだかまっている、大|蛸《だこ》のような巨木の根。そのうえ、無数に垂れさがっている気根寄生木は、柵のようにからまり、瘤《こぶ》のように結ばれて、まさに自然界の驚異ともいう大障壁をなしているのだった。しかも、下はどろどろの沢地、脛《すね》までもぐるなかには角毒蛇《ホーンド・ヴァイパー》がいる。
 蜈蚣《むかで》の、腕ほどもあるのがバサリと落ちて来たり、絶えず傘《かさ》にあたる雨のような音をたてて山|蛭《ひる》が血を吸おうと襲ってくる。まったくバイエルタールの魔手をのがれたのは一時だけのことで、またあらたな絶望が一同を苦しめはじめた。
「殺してよ、座間」
 マヌエラが、しまいにはそんなことを言いだした。そして、虚《うつ》ろな、笑いをげらげらとやってみたり、ときどき嫌いなヤンへにッと流眄《ながしめ》を送ったりする。彼女もだんだん、正気を失いはじめてきたのだ。
 さすがにカークだけ
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