フまぎれのない逃げ道だ。
 こうして、マヌエラをめぐるあらゆる疑惑が解けた。まるでハイド氏のような二重人格も、怪奇をおもわせたドドの魅魍《みもう》も、さらに、いま五人のものが浮びあがろうとすることも、畢竟《ひっきょう》マヌエラに可憐な狂気があるからだった。座間は、息をふきかえした愛情のはげしさに泣きながら、もう一刻も猶予《ゆうよ》できないことに気がついた。
「諸君、助かるかもしれん。とにかくすぐに水牛小屋へゆこう」
 まず、醜言症を聴かせぬためマヌエラには猿轡《さるぐつわ》をし、ドドを連れて、そっと一同が小屋を忍びでたのである。そこには、地下からうねうねと上へのびて東方の絶壁上へでる、やっと這ってゆけるほどの地下道があった。一同はこうして、猿酒郷《シュシャア・タール》を命からがら抜けでたのである。
 やがて樹海の線に暁がはじまったころ、おそらく追手のかかるマコンデとは反対に、いよいよ、悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]へと近付く密林のなかへ、心ならずも逃げこんで行くのだった。

   雪崩《なだ》れる大地

 密林はいよいよふかく暗くなって行った。大懶獣草《
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