ノ、カークが野火をはなった。その煙りが、娑婆《しゃば》をうつすいちばん最後のものになったのが、隊のなかの誰と誰だろうか。そうして、最後の密林行がはじまったのである。
すると間もなく、樹間がきらきらと光りはじめてきた。森がつきる――とそのとき、どこに潜んでいたのか十四、五人のものが、一同をぐるりと取り囲んでしまった。見なれぬ土人だ。しかも、頭《かしら》だった一人は短いパンツをつけている。
「やあ、今日は《ナマ・サンガ》[#ルビは「やあ、今日は」にかかる]」
カークが進みでて愛想よく挨拶をした。しかし、練達な彼がぐっとつかえ、語尾が消えるように嗄《かす》れてしまったのだ。拳銃が……無気味[#底本では「無意味」と誤植]な銃口をむけている。やがて、顎《あご》でぐいぐい引かれて森をでると、したは、広漠《こうばく》たる盆地になっている。草|葺《ぶ》きが、固まっているなかに、倉庫体のものさえある。
「ここは、どこだね」
カークが一同を怯《おび》えさせまいとするように、言った。すると、その男の口から意外にも、未探地帯《ウンベカント・クライス》――とドイツ語が洩れた。アッと、顔をみると鼻筋《はなす
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