カ》の正しい、色こそ熱射に焼けているが、まぎれもない白人だ。
「驚いたろう。俺は、ここに二十年あまりもいる。万一有事のとき、ナイルの水源を閉塞《へいそく》するためにかくれている。俺はドイツ人でバイエルタールという男だ」
こうして、想像を絶する悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]の怪奇のなかへと、運命の手が四人のものを招きよせてゆくのだった。
「猿酒郷《シュシャア・タール》」の一夜
一行の導かれた盆地は谿谷の底といった感じで、赭《あか》い砂岩の絶壁をジグザグにきざみ、遥か下まで石階《いしばし》が続いている。それが、盆地の四方に一か所ずつあって、それ以外の場所は野猿にも登れそうもない。しかし、五人のものは、なんの危害もうけなかった。かえって、怪人バイエルタールは上々のご機嫌だった。
「ここで、白人諸君に会おうとはまったく夢のようだ。どうだ、“Shushah《シュシャア》”という珍しいものを飲《や》らんかね」
といって、怪人は椰子《やし》の殻にどろりとしたものを注いで、
「ねえ君らも、子供の時に猿酒の話を聴いたろう。それが、ここへきてみると、立派に『
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