詞Qを追いながら……、よくマヌエラがゆけたと思うほどの、難行五時間後にやっと視野がひらけた。
 その地峡で、軍用電線が鍵の手にまがっている。すなわちその線を前方に伸ばせないものが、あらたに迫っている密林の向うにあるのだろう。案の定、荷担ぎどもは動かなくなってしまった。ゆけ、金をやるぞとあまり語気がつよいと、おう、お嬶ァ《ヤ・ムグリ・ワンゲ》[#ルビは「おう、お嬶ァ」にかかる]――と、なかには泣きだすものが出てくる。
 じっさい、ここで一同は戻ろうとしたのだった。探検の熱意は、もう誰にもなく、ただカークの指揮でここまで来ただけでも、一同にとれば大成功といえよう。すると、座間一人がなんと思ったのか、強くゆくことを主張したのである。
 殺意が……、この静かな男の面上を覆《おお》い包んでいるのを、そのとき誰も気が付くものはなかった。この機会、最後の密林のなかでヤンを殺《や》ろう。と、身丈ほどもある気根寄生木の障壁、そのしたに溜っているどろりとした朽葉の水。それが、燈火へ飛びこむ蛾の運命となるのも知らず、ともかく、荷担ぎを待たして前方に足をすすめたのである。
 そのとき、地峡をとおる蛇を追うため
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