チて一蹴してしまったのである。これにはヤンも座間と同様おどろいたことだろう。しかし、彼は一夜の甘味をけっして忘れるような男ではない。どんなに白眼視され相手にされなくても、またのチャンスを狙いながら探検隊をはなれなかったのである。
 まったくマヌエラには、座間もヤンもおなじ考えにちがいない。不思議な女だ、二重人格かドドの所業かと……、ヤンが、鉄面皮を発揮して探検隊に加われば、座間はあれこれと非常に迷いながらも頑固な壁をマヌエラに立てつづけているのだった。
 ところで、この探検の費用はマヌエラの父がだし、それも座間が疲労を癒《いや》す物見遊山としか考えていない。
 カークも、大湿林の咆吼《ほうこう》をよぶ狂風を感じはするが……、死を賭《と》して、不侵地悪魔の尿溜をきわめようなどとは、夢にもさらさら思わないことだった。そしてまた、マヌエラも、おなじように考えていた。ただ、しばらく仕事から離れればと……、ちかごろ座間の様子がじつに変であるだけに、どうかこの旅行で静養してくれと、じっさい悪魔の尿溜のことなど最初から頭になかった。しかも、座間とてもおなじように変ってきている。
 それは、さいしょカ
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