タ《けが》すような想像はしなかったが、もしやあるかも知れないドドの魔性が、恋情とともにマヌエラに絡《から》みついたのではなかろうか。
あのときドドは羽目を隔てていたが、それを透して、なかのマヌエラを遠くから動かす――そんなことは、土人の魔法医者《ウィッチ・ドクター》なら朝飯まえの仕事だ。まして、飛行機をみても驚かぬようなドドには、なにか底しれぬものがある。
マヌエラ自身の素質か、ドドの魔性かと、廻り燈籠のような疑問が考え疲れたあげくふと消えて、座間は思いがけもしなかった大きな穴が、じぶんの足下に口を開いているのに気がついた。ああ、二重人格でもなければ、ドドの魔性でもない。たんなるマヌエラの裏切りなのだ。ヤンがきてその純白の肌を見、振返って座間の黒々とした皮膚をみたとき、マヌエラは一途に座間が嫌いになったのだ。売女《ばいた》、売女め! とかきむしるような言葉を、寝床のなかで座間は咆《ほ》えたてていた。やがて夜があけた。雨が暁の微光に油のように光りはじめてきた。
その翌夜、カークを書斎に呼びいれて、座間は気負ったように話しはじめた。
「君、僕は旅行しようと思う」
「よかろう、君はきの
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