ヘ、ドドを売れば十万やそこらにはなるだろうから、それにヤンの資産をくわえて研究所を拡張し、名実兼ねた総合病院にしようというのだった。つまり、座間がしている社会施設を、ヤンが営利化しようというのである。
しかし、これには、なによりマヌエラが真向から反対した。それでも、ヤンは嘲笑《せせらわら》って、なアにお父さんを説き伏せて晩にきますよと、洒々《しゃあしゃあ》と自信ありげに帰っていったのである。そうして、研究所に一つの危機がくることになった。
と、その夜、座間が寝つかれないので、書斎へゆこうとしたとき、ドドの部屋のまえをとおると、鍵がおりてない。そこへ、患者面会人がやすむ部屋のほうで、微かにごそりごそりと音がする。まさか、ドドが逃げるわけはないがと、そっとその部屋の扉をひらいたときだった。思わず、あッと叫びそうなのを辛《から》くも抑えたほど、座間ははげしい駭《おどろ》きにうたれた。
そこにいたのは……ドドではない。さっきの憎しみを忘れたように、ヤンとマヌエラが抱かんばかりに向き合っている。座間はまず、じぶんの目を疑った。続いて、耳までも疑わねばならぬような会話を聞いた。
「あたしを愛
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