撃ェあればてきめんに衰弱するとか、食べものを減らして皮膚の色をみろとか……、そんなこと、それは動物にすることだと思いますわ。ドドはあくまで人間で、あたくしの友だちです」
ふかい、同情の念とかたい信念とで、マヌエラがきっぱりと言い切った。彼女の、骨にまで浸みたカトリックの教育は、よくこうした場合、一歩も退かせないのだ。座間は浄《きよ》らかな百合《ゆり》の花をみるように、しばしマヌエラの顔を恍惚《こうこつ》とながめていた。
まったく、ドドはマヌエラのそばを一瞬の間もはなれようとしない。いないと、いまも聴えるように悲しそうな叫び声をたてる。
お嬢さん、いまに魅入られますよ――と、カークは冗談に言ったけれど、まったく二人の親密さにはそう言いたくなる。
ところが、その夜不思議な出来事がおこった。
夜になると、温度はいくぶん下がるけれど、その倦怠《けんたい》さと発汗の気味わるさ。湿気の暈《かさ》が電灯の灯をとりまいている。
こういう時には、ドドの唸《うな》り声さえもちがってくる。じつに、誰でも平常でなくなるような、蒸し暑い、いやな晩であった。
その夕、座間はヤンと激論を戦わした。それ
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