、のか、マヌエラは非常に彼を嫌っていた。それに、どこへいっても腰の落ちつかぬ男で、先ごろまで、エジプトのミスル航空会社で副操縦士《コ・パイロット》をしていたが、そこでも、喧嘩をしたらしくモザンビイクに帰ってきたのである。マヌエラの父が親代りで、ヤンの父の遺産を保管しているからだった。
 ところがヤン・ベデーツがくると、研究所の空気がきゅうに乱れてきた。それはヤンが患者を汚ながったり虐待《ぎゃくたい》するばかりか、座間やカークには、この混血児めと蔑視的な態度を見せるからだった。
「なにか、ありましたんでしょう?」
 今日も今日とて案じ顔に、座間の胸のボタンをいじりながらマヌエラが、やさしい上目使いをして訊ねた。
「さっき、ヤンがたいへんな目をして、ハアハアいいながら水を飲んでいましたよ。それからカークさんは、拳固のへんに辛子膏をなすっていらっしゃるんですの」
「じゃ、やったんでしょう。カークは、いつかやってやると言ってましたからね。ジャングルの主が野牛を殴りとばすような勢いでやったんじゃ、ヤン君もさぞ痛かったでしょう。しかし、ヤン君の身にもなれば……」
「え? なんのことですの」
 マヌ
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